小田原の漁師Story

米神の定置漁

おいしい魚の宝庫、江戸から続く豊かな漁場が誇り

 

 

小田原市漁業協同組合

石垣誠 漁労長

23歳から漁師となる。33歳漁労長に就任。

 

 

 

漁労長とは定置網漁を率いるリーダー。一日の漁と翌日の準備を終え、小田原漁港に帰って来た石垣漁労長にお話を伺いました。

 

ー 今朝は何時頃出発なさったのですか?

1:30に集合して出発しました。毎日、同じ時間です。

小田原漁協の定置網が仕掛けてある米神(こめかみ)漁場は、小田原から少し西、根府川の沖合にあって、小田原漁港からは5kmほど。船で15分くらいの場所にあります。

 

ー 定置網漁とは、どんな漁ですか。何人くらいで沖に行くのですか?

 

沖に行くのは20人、年齢層は、下は18歳から上は60代まで、ベテランから新人までいます。

定置網漁、というのは、魚の通り道に網を仕掛けて網をたぐり、奥の網に追い込んで獲る漁法です。

2艘の船で挟み込むようにして、一番奥の網に追い込んだ魚を船に引き上げて、殺菌冷海水が入った船底にどんどん入れていきます。豊漁の時は魚が1艘で入りきらずに、両方の船に満載して港に戻る時もありますよ。

港に戻るのは、出発してから3時間後くらい。4時から4時半くらいですね。

 

ー 港に戻ってからセリまで、とにかく”早い”と伺ったのですが。

よく映像などでみる漁港の様子として、魚が入った網を船からクレーンで引き上げて、選別台にザバーっと下ろして手で魚を選別して、というのがあると思うんですが、小田原漁協では船が戻って来たら、ポンプで船底から魚を一気に引き上げるんです。

引き上げたら次は、選別機にかけます。あの大きな装置に上から魚を入れると自動的に、大きさ毎に選別されます。

大漁の時でも短時間で仕分けられるから、それだけ早くセリにかけられる。鮮度を保てる。これがうちの強みです。

もちろん、漁師にとって労力が少なくて済むのも大きなメリットです。

 

ー なるほど、”早い”のはいいことづくめなんですね。

では、改めて、小田原の魚の魅力はどんなところでしょうか。

 

それはずばり、「おいしい」ってことです。

海流の早いところにいる魚は、早い水流の中で走っているから筋肉質、というか、痩せているんですね。それが湾内だと、水流が比較的緩やかなので、黒潮に乗って入って来た魚が、湾内にいる間に食物連鎖をして、しっかり太っておいしくなっていく。

小田原の魚はそういう恵まれた漁場の魚なんですよ。

 

もう一つの魅力は、小田原漁港の地の利。築地や横浜といった中央卸売市場に比較的近いので、いち早く届けることができます。加えて、圏央道ができたことも大きいですね。今までだったら魚が来なかった地域にも、市場に直接トラックをつければ数時間で新鮮な魚を持っていける。昼にはスーパーの鮮魚コーナーに朝どれの魚を並べることができるんです。

新鮮に届けるインフラとの合わせ技が、そもそもおいしい小田原の魚の魅力を支えています。

ー 海の幸に恵まれた相模湾の漁師の仕事、やりがいを感じるのはどのような時ですか?

 

どんな漁師でも同じだと思いますけど、やっぱりたくさん獲れた時には手応えを感じますよね。

小田原の魚、といえば多くの方が鯵をあげると思いますが、鯵のハイシーズンは3月から6月中旬。その中盤4月5月の一番獲れる時期に水揚げがいい日が続くと、やった!と思いますね。ボーナスなんかにも跳ね返って来ますし。

僕を含め、小田原漁港には、家業が漁師って言う人はいないんです。みんな漁師を目指して漁協に入社して、月給で働いています。

 

僕は今40代ですが、20代で入った当初は先輩方に一から教わって仕事を覚えました。そのうち、後輩ができると今度は自分たちが教えて、役割を引き継ぎ、世代交代しながら働く。やりがいのある職場です。

 

 

 

ー 石垣さんは、漁師になって22年とのことですが、たとえば、今日は何が獲れそう、というようなことは経験を積むとわかるようになるものですか?

 

定置網には、そこの水温域を好む魚が集まってくるんです。

海全体の潮の流れやその日の天気の様子で、今日は何が来そうかということはある程度は予想できるようになります。

でも実際のところは海に出てみないとわからない。

去年もおととしもこの時期にいた魚が今年はこないな、と思ったら一ヶ月遅れでやって来たり、突然予想もしなかった魚がやって来たり、そんなことの繰り返しです。海は動いていますから。だから、何年やっても飽きないんだと思います。

 

小田原は県内でも屈指の、江戸末期から続く伝統的な漁場なんです。

海はその時々で変わりながら、江戸時代の人も獲って、我々も獲り続けている、その長い伝統を引き継いで、いまの自分たちがあります。

それが、小田原の漁師の誇りですね。

 

 

どこにも負けないおいしい小田原の地魚を多くの人に味わってほしい。

漁師は生涯の仕事、とおっしゃる石垣さんでした。

 

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