「神経締め」の魚の魅力は鮮度と身色と活きた食感!
辰清丸 原辰宏さん
漁師の家に生まれ、7社経験したのち漁師へ。「神経締め」の魚のブランド化を果たす。
鮮魚店でみかける「神経締め」とラベルのついた魚。
たとえば、鯖などの青魚は内陸部では刺身で提供されることは少ないのですが「神経締め」なら別。切り身の色も透明感があって臭みがなく、プリプリとした食感が保たれているのです。
そのおいしさの秘密「神経締め」と呼ばれるワザについて、辰清丸の原辰宏さんに伺ってきました。
ーまずは「神経締め」とは何か、教えてください!
「神経締め」っていうのは、水揚げした直後、生きている魚の中枢神経を壊して、死後硬直を遅らせること。
かける時間は、だいたい10秒以内くらい。いかに早く、時間かけずに締めるかが勝負です。
ー「神経締め」をするのはどんな魚ですか?
どんな魚でも「神経締め」できるんですよ。ただヒラメとか、やらない魚もあります。
使う道具はこれ。針金みたいなもんですね。使い勝手のいいサイズ選ばないとスピードが出ないんで、魚種によっていろんな太さ、種類があるんです。一番長いのはまぐろ用、ヒラマサ用。150cmのがあればだいたい締めれますね。
ー150cm!長い!こんなに長い道具が必要な魚は力がいるんじゃないですか?
その通りです。40kgもんのヒラマサとか一人じゃ抑えらんないですね、マグロが暴れたときにはふっとばされちゃうんで、怪我しちゃったりね、半端じゃないっすよ。
ーどんな魚でも「神経締め」のやり方って同じなんですか?
いや、違いますね。
今このイナダは、脳天で一瞬で締めて、その後血を抜きましたけど、これは日持ちさせるための締め方なんです。
もし、お客さんが料理屋さんで、今日明日店で出したいっていう場合は、このやり方だと身が固すぎてゴリゴリな食感になっちゃう。それを嫌う板さんもいるんで、そういう時は早めに柔らかくなるように血を抜いてから処理します。
でも、スズキとかはその順番でやると身がゆるくなりすぎる。
というように、魚種とか使いたい内容によって順番と工程をいろいろ変えていくんです。
ー知識と技が必要なんですね。「神経締め」を始めたきっかけは?できるようになるのにはどのくらい時間がかかったんですか?
漁師の家に生まれて、他の業種を経験したあとで地元に戻って漁師やるってなったときに、よそと同じことやっても飯食って行けないなとって思ったんです。それで4年かけて資料集めたり研究したり。
「神経締め」自体はだれでもできるんですよ。実は締めた後の処理をどうするかの方が大事なんです。
それから、さっき魚種とかニーズによって処理の順番や工程を変えるって言いましたけど、つまりはお客さんがほしい魚の状態に合わせられるか。
日曜日休みで、金土で使いきれるように、っていうなら、食感ゆるめに、すぐ食べられるようにして送り出す。
逆に、鮮度保つ状態で受け取って、あえて一日二日寝かせた食感で出したい、っていうこともあります。熟成したいとか。
店でおいしく出すためのコントロールはプロの板前さんの判断ですが、それができる魚を届けるのはこっちの仕事。
そういう要望にひとつひとつ答えていって、ウチの魚がほしいって買ってくれるお客さんができました。けど、そうなるまでには相当の時間がかかってます。
ーでは改めて「神経締め」のメリットを教えてください。
まずは鮮度維持ですね。獲って氷に入れておくだけの「野締め」と比べたら日持ちが全然違います。
さっき締めた鯖は酢締めじゃなくて刺身用。鯖は神経締めすると一日目は生で食べられて、次の日でようやく酢締めにできる柔らかさになるんです。血抜きもしっかりやることで、腐敗が遅くなって日持ちがするようになるんです。もちろん、臭みが減っておいしくもなります。ぶりで一週間、ひらまさだと二週間くらいもっちゃいます。
そして、身色。しっかり血抜きをすると身色に透明感が出るんです。
さらに食感。都内とか内陸では獲れてすぐの魚はなかなか食べられない、でも、神経締めした魚なら、海から離れたところにも生きた食感のおいしいさを届けられるんです。
一尾一尾、要望に合わせてやっていくんで、量はできないんですよね。
でも、こだわりのある料理屋さんはやっていることを理解してくれて、信用して買ってくれてますね。
原さんは5mmの厚みのマット(普通に使うものより高いのだそう)に両手で持った魚をそっと置き、上から乾燥防止のシートをかけて蓋をします。
遠くに遠くに運ぶときには、マットは2枚使うのだとか。
高い技術で処理した、鮮度の高い魚を食べられる「神経締め」。
海から遠い場所に住んでいる方にこそ、ぜひ味わっていただきたいなと思います!